基礎知識集

Gemini Robotics 2|1.x系から進化したところ

Google DeepMindは2026年7月30日、「Gemini Robotics 2」を公開しました。
最も大きな変化は、1つのモデルでヒューマノイドの全身を、歩行や屈伸、バランスの維持まで含めて制御できるようになった点です。
公開日2026-08-03読了目安 13分

01モデル構成

この3つは、同じモデルの派生版ではありません。3つとも役割が違い、場面を理解して計画を立てるモデル、その計画を動作に変えるモデル、ロボット本体のハードウェア上で動くモデルに分かれます。実際に動くシステムは、このうち複数を同時に使います。

PLANS

Gemini Robotics ER 2

エージェントとして働く視覚・言語モデルです。物理的な場面を推論し、人と会話し、デジタルのツールを呼び出し、指示を動作モデル向けの工程に分解します。ベースはGemini 3.5 Flashです。

  • 連続した映像で作業の進捗を追う
  • 複数のロボットを同時に指揮する
  • Gemini API経由で一般提供
MOVES

Gemini Robotics 2

視覚と言語を運動制御に変換するVLAモデルです。今回のアップデートで全身制御と多指ハンドの器用さを獲得したのが、このモデルです。

  • ヒューマノイドを足先から指先まで動かす
  • 双腕機や単純なグリッパーにも対応
  • アーリーアクセスの提携先のみ
RUNS LOCALLY

Gemini Robotics On-Device 2

ロボット本体のハードウェア上で、インターネット接続なしに動かすための小型VLAです。見知らぬ機体へ短時間で載せ替えることも想定されています。

  • 数時間で新しい機体に適応
  • 必要な学習例は通常200件未満
  • Trusted Testerのみアクセス可能

DeepMind自身の安全性レポートは、この分け方を「システム2/システム1」構成と呼んでいます。上流に時間をかけて考える計画役、下流に反射的に速く動く制御役を置き、上流が下流に作業を渡す形です。3つのうち開発者が自由に使えるのが1つだけである理由も、この構成から説明できます。詳しくは後半の「入手方法」で扱います。

Google DeepMind公式の発表映像。3つのモデルをまとめて紹介しています。

021.x系からの変化

2は、2025年3月に始まった系列の5番目のバージョンにあたります。3つのモデルはそれぞれ別の周期で更新されてきたので、1.x系からの伸び方もモデルごとに違います。

VLA

1.5 → 2

  • 腕だけ → 足先から指先まで
  • グリッパー → 22自由度の5本指ハンド
  • 机の可動範囲 → 歩行・屈伸・バランス保持

Gemini Robotics 1.5の時点でALOHA 2・Apollo・双腕のFrankaに対応していましたが、扱っていたのは掴む・仕分ける・置くといった腕の作業でした。2では脚と胴体も担当するため、低い棚や床に手を伸ばす動作が同じ方策の内側に入ります。別の制御器に段取りしてもらう必要がありません。

ER

1.5・1.6 → 2

  • 静止画 → 連続した映像
  • 1台 → 複数台の指揮
  • 計器の読み取りは1.6で追加、2でも評価項目

Gemini Robotics-ER 1.5は、身体性推論の学術ベンチマーク15種の総合で首位でした。1.6は指し示し・数え上げ・複数視点の理解を改善し、Boston Dynamicsとの共同開発で計器の読み取りを追加しています。2の変化は精度というより時間軸です。連続した映像を扱えるようになったので、画面に何が写っているかだけでなく、その工程がいつ終わったかまで答えられます。

ON-DEVICE

Gemini Robotics On-Device → 2

  • 2025年: 新しい作業に実演50〜100回
  • 2026年: 新しい機体に数時間・学習例200件未満
  • 2025年の公開時点からALOHA・Franka FR3・Apolloで検証

3つのうち、途中のバージョンが無いのはこの系統だけです。2025年6月の「Gemini Robotics On-Device」から約13か月、次の発表がバージョン2でした。2025年のモデルは新しい作業に50〜100回の実演で適応するとされ、2026年のモデルはまったく新しい機体に数時間・200件未満の学習例で適応する、と別の軸で示されています。片方は新しい作業、もう片方は新しいハードウェアを数えているので、同じ尺度の改善として並べることはできません。

すべてが置き換わったわけではありません。1.5が導入した2つの仕組み、つまりある機体で見せた動作を別の機体へ持ち込む「Motion Transfer」と、行動する前に自然言語で考える工程は、2でさらにアップデートされています。そう読むと、全身制御や数分単位の計画は、まったく新しい方向というより、この2つの延長線上にあるものです。

これまでのバージョン

推論モデルは、対応する動作モデルのアップデートを伴わないまま3回更新されました。開発者が通常のAPIから触れるのが、こちらの半分だけだからです。今回は表記も変わりました。1.6までは「Gemini Robotics-ER」で、バージョン2からはハイフンの無い「Gemini Robotics ER 2」です。

時期内容
2025-03「Gemini Robotics」と「Gemini Robotics-ER」を同時公開。Gemini 2.0がベースで、Agile Robots・Agility Robotics・Boston Dynamics・Enchanted Toolsなどのtrusted testerに限定。
2025-06「Gemini Robotics On-Device」を公開。データセンターではなくロボット本体で動かす最初のバージョン。
2025-09「Gemini Robotics 1.5」「Gemini Robotics-ER 1.5」へアップデート。ある機体で学んだ動きを別の機体へ移す「Motion Transfer」と、行動前に自然言語で考える工程を追加。
2026-04「Gemini Robotics-ER 1.6」へアップデート。指し示し・数え上げ・複数視点の理解を改善し、Boston Dynamicsとの共同開発で計器の読み取りに対応。
2026-07「Gemini Robotics 2」「Gemini Robotics ER 2」「Gemini Robotics On-Device 2」へ同時にアップデート。ERの表記からハイフンが外れる。全身制御・多指ハンドの器用さ・複数ロボットの連携、そして安全性ベンチマーク「ASIMOV-Agentic」。

03全身制御

これまでのGemini Roboticsは、実質的に上半身のモデルでした。テーブルの上で腕と手を動かすことが中心で、その可動範囲の外にあるものは対象外でした。Gemini Robotics 2では脚と胴体、つまりロボットの重心そのものが制御対象に加わります。これにより、目標に向かって歩き、しゃがみ、身体を傾けて手を伸ばせるようになりました。

DeepMindが挙げている実例は「じょうろを、下の棚の緑の箱に入れて」という指示です。Apptronikのヒューマノイド「Apollo 2」がテーブルまで歩いてじょうろを取り、棚まで歩いて所定の場所に置きます。移動と、低い棚に手を伸ばすときに必要なバランス制御の両方を、モデルが担当しています。

Google DeepMind公式の映像。Apollo 2が歩き、しゃがみ、姿勢を保ちながら物を扱う様子です。腕だけを動かしていた前世代とGemini Robotics 2を分ける、まさにその挙動が確認できます。

成功率

76.3%
棚から取り上げる
68.4%
テーブルから取り上げる
45.7%
床から取り上げる

Inspire製ハンドを装着したApollo 2での、全身を使ったマニピュレーションの成功率。

注目したいのは床からの取り上げです。地面にある物を拾う動作こそ全身制御が最も必要になる場面ですが、公開されている数値はそこが最も低くなっています。この機能がまだ新しいことを、そのまま表した結果と言えます。

04器用さ

2つ目の進展は、人が手作業でプログラムするのが難しいほど複雑なハンドを扱えるようになったことです。Gemini Robotics 2は、22自由度の5本指ハンド「SharpaWave」を装着したApollo 2を動かせるほか、Franka Duoに取り付けたRobotiq製グリッパーのような一般的な2本指の平行グリッパーも動かせます。この幅は商業面で重要です。現場に既に入っているロボットの多くは、人の手を模したハンドではなく単純なグリッパーを付けているからです。

DeepMindが公開したタスク一覧は、意図的に細かい作業で構成されています。ゴミ袋の口を縛る、ジッパー付き保存袋を閉じる、ちり取りに掃き入れる、電球をソケットにねじ込む。いずれも、作業中に動いてしまう対象に対して力加減を絶えず調整する必要があります。

Google DeepMind公式の、器用さに関する映像。上の成功率が測定された5本指ハンドの各タスクが映っています。

5本指ハンド

SharpaWaveハンド装着時のApollo 2のタスク成功率

電球を外す
92%
ゴミ袋を縛る
44%
ジッパー付き保存袋を閉じる
40%
電球をねじ込む
36%
ちり取りに掃き入れる
32%

電球を外す動作とねじ込む動作は、ほぼ同じ動きを逆向きにたどるだけですが、公開された数値の差はこの一覧で最大です。外す側はある程度の粗さが許されます。ねじ山がかみ合えば、あとは自然に導かれるからです。ねじ込む側は力をかける前に軸を合わせておく必要があり、そうはいきません。

2本指グリッパー

なお2本指グリッパーでは、精密な挿入作業を含めて、公開されたどのタスクでも高い数値が出ています。高機能なハンドが、そのまま信頼性の高いハンドになるわけではないということです。

05複数ロボットの連携

3つ目の進展は、動作モデルではなくER 2側のものです。1つの推論モデルが複数のロボットにまたがる計画を保持し、それぞれの機体構造に合った担当部分を割り振り、誰がどこまで終えたかを追えるようになりました。DeepMindのデモでは、ヒューマノイドのApollo 2と双腕マニピュレータのFranka F3 Duoを組み合わせています。別の構成では、ER 2がBoston DynamicsのSpotを、その移動・マニピュレータAPI経由で指揮します。

これを実用的にしているのは、ER 2が見ているものの変化です。静止画ではなく連続した映像を読むため、ある工程が実際に終わったかを判断し、失敗に気づき、作業の途中で計画を立て直せます。DeepMindは数分間にわたり数百回の判断を要するタスクを挙げていますが、これは静止画1枚ずつで作業を監督するモデルには扱えない長さです。

Google DeepMind公式の、複数ロボット連携の映像。ヒューマノイドと双腕マニピュレータが、1つの推論モデルの下で同じ作業に取り組んでいます。

ベンチマーク

公開されている正答率(%)。各ベンチマークで比較対象となった最上位モデルとの対比
Gemini Robotics ER 2比較対象の最上位モデル

実機制御(対 Gemini Robotics-ER 1.6)

60.0
48.6

人が1メートル以内に近づいた際の停止(対 GPT 5.6 Sol)

93.0
83.4

画像からの成否判定(対 Claude Opus 5)

87.7
83.6

身体性を伴う質問応答 ERQA(対 Gemini 3.6 Flash)

78.5
73.0

進捗判定(対 GPT 5.6 Sol)

57.4
46.2

この中では進捗判定の絶対値が最も低く、しかも複数ロボットの連携が最も依存する能力でもあります。作業がどこまで進んだかを正しく判断できない指揮役は、次の指示を出すタイミングを間違えるからです。

06安全性の評価

DeepMindはモデルと同時に安全性レポートを公開し、評価に使ったベンチマーク「ASIMOV-Agentic」をデータセットとして配布しました。そこでの主張は、非常停止や速度制限といった物理的な安全対策は今後も必要だが、それだけでは足りない、というものです。自分で作業手順を組み立てるモデルは、物理的な安全装置が反応する対象を生む前に、危険な状況へ踏み込んでしまうことがあるからです。

ASIMOV-Agentic

ASIMOV-Agenticが採点する挙動

  • 可搬重量の上限や「蓋のない食品容器には触れない」といった、明示された運用上の制約に反する作業を、理由を添えて断る。
  • 安全監視から機器の異常・姿勢の崩れ・人の接近が通知されたとき、作業の途中でも保護停止をかける。
  • 学習していない作業を動作モデルに渡さない。信頼できない動きをその場で作らせるより、手前で止める。
  • 曖昧な指示を推測で埋めず、作業者に聞き返す。机の上にベルトが2本あるのに「ベルトを緑のトレイに入れて」と言われた場合などが該当します。

結果のばらつき方には示唆があります。ER 2を含め、評価した最先端モデルはいずれも、構造化された安全メッセージへの反応で100%を記録しました。従来のソフトウェアに最も近い部分です。一方、そもそもその作業が実行可能かの判断は、動作モデルの学習内容をどれだけ事前に伝えてあるかに大きく左右され、正答率は説明なしの62.0%から、最も詳しく説明した場合の95.8%まで開きました。

レポートが扱っていない範囲

レポートが自ら対象範囲を明記している点は、個々の数値より重要です。評価しているのは高次の意味的な推論だけで、実際に人の近くで運用するために必要な次の3つは評価していない、と述べています。

安全性レポートの対象外

  • 認証済みハードウェア。機能安全の規格に適合した部品で構成されているかどうかで、モデルの振る舞いとは別に問われる部分です。
  • 冗長化の仕組み。一部が動かなくなっても機械が安全側に倒れるようにする作りのことです。
  • リアルタイム性の保証。止めるという判断が正しいかどうかではなく、危険を検知してから実際に止まるまでの時間に上限があり、それを示せることです。

ここで高い点を取ることと、人のそばで働く許可が下りることは別の話です。そちらはISO/TS 15066などの規格が扱う、別の領域の技術です。

07入手方法

一般に利用できるのは推論モデルだけです。2つの動作モデルはアーリーアクセスの枠内にとどまっています。これは、これまでのGemini RoboticsのVLAでもDeepMindが一貫して取ってきた形です。

提供状況

モデルごとの利用条件

  • Gemini Robotics ER 2: Gemini APIとGoogle AI Studioで公開プレビュー。Gemini Enterprise Agent Platformでは限定プレビューです。
  • 前世代のER 1.6のプレビュー版は非推奨で、2026年8月31日に停止予定です。移行先としてER 2が案内されています。
  • Gemini Robotics 2(VLA): 申し込みフォーム経由のアーリーアクセス提携先のみ。一般公開のAPIはありません。
  • Gemini Robotics On-Device 2: Trusted Testerのみ。アーリーアクセスの登録待ちリストがあります。

対応ハードウェア

対応ハードウェアは、話題の中心にあるヒューマノイドにとどまりません。DeepMindはApptronik・Boston Dynamics・Agile Roboticsを提携先として挙げており、公開された評価はApollo 2とFranka Duo、そしてオンデバイス版ではDexmate・Trossen・SO-101の各プラットフォームに及びます。最後のSO-101は低価格のオープンソースアームです。

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08よくある質問(FAQ)

自分のロボットでGemini Robotics 2を今すぐ使えますか?

推論側だけです。Gemini Robotics ER 2はGemini APIとGoogle AI Studioで公開プレビュー中なので、場面を見せて計画を出させることはできます。実際に動作を生成する2つのモデル、つまりVLAとオンデバイス版VLAはアーリーアクセスの提携先とTrusted Testerに限定されているため、一式そろえるにはDeepMindとの個別の取り決めが必要です。

NVIDIAのIsaac GR00Tとは何が違うのでしょうか?

ロボットの動作を出力する基盤モデルという意味では同じ層に位置しますが、提供の仕方が違います。NVIDIAはGR00Tの学習済みの重みを公開し、開発者がダウンロードして追加学習できる形にした上で、シミュレーションツールと自社の計算ハードウェアと組み合わせて提供しています。DeepMindはGemini Roboticsの動作モデルをアクセスプログラムの内側に置き、APIとして出しているのは推論モデルだけです。

公開されている成功率に低いものがあるのはなぜですか?

その作業専用に作られたモデルの数値ではなく、汎用モデルとしての数値だからです。同じ電球でも、治具で固定し位置を決めた従来型の産業用ロボットなら、はるかに高い信頼性で締められます。ただし電球が2センチずれた瞬間に、まったく対応できなくなります。Gemini Roboticsの数値は、個別にプログラムされていない作業にモデルが挑んだ結果であり、主張している内容そのものが違いますし、条件としては格段に難しいものです。

安全性レポートがあれば、人の近くで働かせてよいということでしょうか?

いいえ。レポート自身がその旨を明記しています。評価しているのは、危険な指示を断る・停止をかける・聞き返すといった高次の判断が妥当かどうかであり、実際の運用に必要な認証済みハードウェア・冗長化・リアルタイム性の保証は評価対象外だと述べられています。そちらはISO/TS 15066などの規格が扱う、別の領域の作業です。

09出典

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