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NVIDIA Isaac GR00Tとは:NVIDIAがロボティクスで実際に売っているもの
Isaac GR00TとJetson Thorのおかげで、この投資は一つの研究プロジェクトから、ヒューマノイドロボット業界の多くが自前で作らず買うインフラへと育ちました。
要点
- Isaac GR00Tは、NVIDIAが手掛けるヒューマノイドロボット向けの基盤モデルで、物理的な製品ではなく、汎用的な知覚・運動スキルをロボットに与えるソフトウェア。
- NVIDIA自身は筐体を作らず、他社が組み立てる際の土台となるモデル・シミュレーター・チップを売るビジネスモデル。
- ロボティクス事業は今も単独の開示済み売上高を持たず、NVIDIAのはるかに大きいデータセンター向けAI事業の上に積み重ねられた長期投資にとどまる。
01Isaac GR00Tとは
Isaac GR00Tは、NVIDIAが手掛けるヒューマノイドロボット向けの基盤モデルです。物理的な製品ではなく、ソフトウェアそのものを指します。タスクごとに動きを手作業でプログラムする代わりに、汎用的な知覚・推論・運動スキルをロボットに与えることを狙っています。NVIDIAは2024年3月のGTCで「Project GR00T」として構想をまず公表し、1年後の2025年3月、GTCサンノゼで「Isaac GR00T N1」を発表しました。NVIDIA自身の言葉を借りれば、「汎用ヒューマノイドの推論とスキルに向けた、世界初のオープンかつ完全カスタマイズ可能な基盤モデル」です。
核となるのはデュアルシステム構成です。瞬間ごとの運動制御を担う高速で反射的な「System 1」と、目の前のタスクをじっくり計画・推論する低速な視覚言語モデル「System 2」を組み合わせています。学習データには、一人称視点で撮った人間の動画、実機ロボットの動作記録、シミュレーションで生成した合成データを用いています。発表の場でCEOのジェンスン・フアン氏は「汎用ロボティクスの時代が到来した」と力強く宣言しました。NVIDIAは2025〜2026年の発表を通じて、産業界の顧客に向けてさらに踏み込んだメッセージを繰り返し発信しています。「あらゆる産業企業がロボティクス企業になる」というものです。

Isaac GR00Tが動くことを想定しているのは、こうしたハードウェアです。写真はUnitreeの「G1」。NVIDIAが後に自社のリファレンスプラットフォーム向けに選んだ機体で、詳しくは下記のエコシステムの節で扱います。
写真: Sayanesy、CC0、Wikimedia Commons経由GR00Tのデュアルシステム構成
高速・反射的
瞬間ごとの運動制御を担う層です。物をつかむ手を安定させたり、足の運びのバランスを取ったりする低レベルの反射を、1秒間に何度も繰り返します。
低速・熟考的
視覚言語モデルが周囲の状況を見て、計画を立て、目の前のタスクを推論する層です。判断がまとまると、その計画をSystem 1に渡して実行させます。

GTCサンノゼ(2025年3月)。本稿の中心である「Isaac GR00T N1」が発表されたカンファレンスです。
写真: Jack145945、CC BY-SA 4.0、Wikimedia Commons経由02開発の系譜(2024〜2026年)
GR00Tの歴史は、GTC基調講演での発表の積み重ねそのものです。そのたびにモデルの能力か、それを動かす計算基盤のどちらかが強化されてきました。2025年3月の発表以来、おおむね半年に一度のペースで続いています。
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 2024-03 | GTCで「Project GR00T」とIsaacロボティクス基盤の更新を初めて予告 |
| 2025-03 | GTCサンノゼで「Isaac GR00T N1」を発表。NVIDIAは初のオープンなヒューマノイド基盤モデルだと説明 |
| 2025-06 | Computexで「GR00T-Dreams」(Cosmos世界モデルによる合成軌道生成)を発表 |
| 2025-08 | 「Jetson AGX Thor」が一般提供開始。NVIDIAはロボティクス基盤の利用者「200万人」と発表 |
| 2026-03 | 産業・ロボティクス分野の数十社のパートナーを一度に列挙する発表 |
| 2026-06 | GTC Taipei:NVIDIAとUnitreeが「Isaac GR00T リファレンス・ヒューマノイドロボット」を発表 |
| 2026-07 | NVIDIAとHugging Faceが「GR00T 1.7」とIsaac TeleopをLeRobotに統合。NVIDIAは開発者数「300万人」と発表 |
NVIDIA公式による「Isaac GR00T N1」の解説映像(2025年3月)。下記で説明するデュアルシステム構成と学習データについて紹介しています。
03全体像
NVIDIAが実際に販売しているのは、単一の製品というよりパイプライン一式です。土台となる物理シミュレーションはIsaac Simが担い、そこで生まれた映像をCosmosとCosmos Transferが合成学習用データとしてフォトリアルに仕立て上げます。2025年のComputexで披露されたGR00T-Dreamsは、同じCosmos系の世界モデルを使って、1枚の画像と言葉による指示だけから合成的なロボット動作の「夢」を作り出す仕組みです。NVIDIAによれば、この方法でGR00T N1.5の学習データを生成する時間は、手作業なら約3か月かかるところをわずか約36時間まで縮められたといいます。もっとも、この数値はNVIDIA自身の主張であり、独立した第三者の検証は経ていません。強化学習と模倣学習の訓練そのものを受け持つのがIsaac Labで、GTC 2026で正式版(GA)となったIsaac Teleopを使えば、シミュレーションと実世界の両方で実演データを一つの統合ツールから収集できます。こうして積み上げた全ての土台の上に乗るのが基盤モデルGR00Tであり、完成したロボットが実際にそれを動かすチップが「Jetson AGX Thor」です。
GR00Tのバージョン推移
GR00T N1
初版。人間の動画・ロボットの動作記録・合成データで学習した、高速な動作系と低速な推論系からなるデュアルシステム構成。
N1.5 / N1.6
視覚言語バックボーンを刷新し、状況理解と指示追従を改善(N1.5)。両腕操作や移動と操作の複合タスク向けにアーキテクチャとデータを改善(N1.6)。
N1.7
視覚言語モデルの土台を刷新し、20,854時間分の一人称視点動画で事前学習。同年7月にはIsaac Teleopとともに、Hugging Faceの「LeRobot」に統合。
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04エコシステム:実際の採用企業
緩やかなつながりと確定した提携
NVIDIA自身はヒューマノイドロボットを作っていません。他社がロボットを組み立てる際の土台となる各レイヤーを売るのが、同社のビジネスモデルです。2026年3月には、数十社のパートナー名を一度に挙げたプレスリリースを発表しており、実際の展開ぶりを最もはっきり映し出すスナップショットと言えます。その中でも具体的で検証可能な関係を下記にまとめました。一方で、もっと緩やかなつながりもあります。NVIDIA自身のリリースは、Agility Robotics・Boston Dynamics・Figure・1X・AGIBOT・Hexagon Robotics・NEURA Robotics・Humanoidという8社のヒューマノイドメーカーを、「Cosmos・Isaac Sim・Isaac Lab・GR00T Nモデルを使ってヒューマノイドを開発中」とひとまとめに紹介するにとどまり、各社ごとの具体的な中身には触れていません。各社の確定した導入実績を示すリストというより、方向性を示す表現として読んだ方がよいでしょう。
Unitreeとのリファレンスプラットフォーム
直近で最も具体的な事例が、2026年6月にGTC Taipeiで発表された、NVIDIAとUnitree共同開発のリファレンスプラットフォームです。Unitreeの「H2 Plus」シャシー(身長約1.8m、31自由度)に、シンガポールのSharpa製の触覚付き5指ハンドを組み合わせ、Isaacソフトウェアスタック全体を動かすJetson AGX Thorを「頭脳」として搭載した、合計75自由度のヒューマノイドです。研究機関としてはAi2・ETHチューリッヒ・スタンフォード大学・UCサンディエゴの名が挙がっています。この発表を巡る報道では、NVIDIAが今回のリファレンス設計に中国のロボットメーカーを選んだ点が注目を集めました。もっとも、NVIDIAは米国・欧州のヒューマノイドメーカーとも同様のリファレンスプラットフォームを進めているとしており、独占的な取り決めというわけではありません。
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Unitreeのヒューマノイドロボット:H1・G1・H2・R1
このNVIDIAリファレンスプラットフォームとは別に販売されている、Unitree自身の製品ラインナップ。
NVIDIA公式によるGTC Taipei 2026基調講演の完全版(2026年6月)。下記のエコシステムの節で扱う、Unitreeと共同開発した「Isaac GR00T リファレンス・ヒューマノイドロボット」の発表を含みます。
具体的で検証可能な提携
- ABB・FANUC・Yaskawa・KUKA:仮想試運転とデジタルツインによる生産ライン検証にOmniverseとIsaac Simを活用
- Johnson & Johnson MedTech:外科手術プラットフォーム「Monarch」向けにIsaac SimとCosmosを利用
Hugging FaceとLeRobot
2026年7月、NVIDIAとHugging Faceは提携を拡大し、GR00T 1.7とIsaac Teleopをオープンソースの「LeRobot」ライブラリに統合しました。GR00T 1.7については「初のオープンかつ商用的に実用可能なロボット基盤モデル」だと位置づけています。両社は、それぞれのエコシステムを合わせることで、NVIDIA側が自己申告する300万人のロボティクス開発者と、Hugging Face側の1,600万人のAI開発者がつながったと主張していますが、外部から検証するのが本質的に難しい規模の話です。この開発者数の主張が時間とともにどう推移してきたかは、下記リンク先の記事で扱っています。
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Hugging Faceのオープンソース・ロボティクス基盤と、NVIDIA自身のツールとの連携。
05中核事業との規模差
開発者数の主張が何を意味するにせよ、ロボティクス事業には単独の開示済み売上高すらありません。NVIDIAの決算資料は「オートモーティブ・ロボティクス」を一つの見出しにまとめていますが、実際に金額が開示されるのはオートモーティブ(自動車)事業だけです。2026会計年度通期で23億ドルというその数字は、全社売上高2,159億ドル、データセンター単体1,937億ドルという規模と比べれば小さなものです。なおこの23億ドルは自動車事業の数字であり、ロボティクス事業の数字ではありません(詳しくは下記リンク先のDRIVE記事を参照)。ロボティクス単体の売上高はそもそも一切開示されておらず、自動車事業だけで全社売上高の約1%、データセンターが約9割を占める規模を踏まえると、ロボティクスが個別に生んでいる売上高はさらに小さいはずです。2027会計年度第1四半期の決算からは、NVIDIAはオートモーティブを独立区分として報告すること自体をやめ、ロボティクスやPC・ゲーム機なども含む、より広い「エッジ・コンピューティング」区分へ統合しました。両事業の比重がいかに小さいかを物語る変化です。
だからといって、この投資が本気でないわけではありません。2026年7月半ば時点で、NVIDIAの時価総額は約5.1兆ドルと世界最大規模にあります。そのほぼ全ては、下記のチャートが示すデータセンター向けAI事業によって支えられており、ロボティクスはその上に積み重ねられた長期的なプラットフォーム戦略であって、NVIDIAが今すぐ収益化しなければならない事業ではありません。
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NVIDIAの自動車向け計算プラットフォーム。同じチップの系譜の上に成り立つ、もう一つのフィジカルAI投資。
06今後の課題
GR00TのコードそのものはApache 2.0ライセンスで公開されていますが、Hugging Face上で配布されている学習済みモデルの重みには、NVIDIA独自の「Open Model License」が適用されています。商用での下流利用にあたって一定のポリシー上の条件を課す、学習済みモデルの重みではよく見られるタイプのライセンスです。
競争は正真正銘のもので、競合他社が明らかに見劣りするわけでもありません。Google DeepMindの「Gemini Robotics」は、GR00Tの二層構成とは異なり、単一の大規模モデルで対応します。報道によれば、わずか50〜100件のデモンストレーションで新しいタスクに適応できるといいますが、2026年半ば時点では一般公開されておらず、「選ばれた信頼できるテスター」限定にとどまっています。能力面では競り合いながら、公開性という点ではGR00Tより閉じているとも言えるでしょう。Physical Intelligenceの「π0」はまた別のアプローチです。興味深いのは、Physical IntelligenceがNVIDIAの計算基盤の顧客(Jetson Thorの評価企業の一社)であると同時に、GR00Tと競い合う基盤モデルの開発元でもある点です。業界の主要プレイヤーは、「NVIDIAのエコシステム」と「NVIDIAの競合」にきれいに分かれているわけではありません。
07よくある質問(FAQ)
NVIDIAは自社でヒューマノイドロボットを作っているのですか?
いいえ。NVIDIAが販売しているのは、基盤モデル(Isaac GR00T)、シミュレーション・合成データツール(Isaac Sim・Cosmos)、そして他社のロボットに搭載される計算チップ(Jetson AGX Thor)です。実際のロボットに最も近い存在としては、Unitreeのハードウェアとシンガポールのスタートアップ「Sharpa」のハンドを組み合わせたリファレンスデザインが2026年6月に発表されていますが、あくまで研究用途向けであり、NVIDIAが消費者向けに直接販売する製品ではありません。
Isaac GR00Tは本当にオープンソースなのですか?
部分的にはそうです。コード自体はApache 2.0で公開されていますが、学習済みモデルの重みにはNVIDIA独自の「Open Model License」が適用され、商用利用に条件が加わります。無制限のオープンソースとの違いや実際に生じている混乱については、上記「今後の課題」の項で詳しく扱っています。
ロボティクス事業は現在、NVIDIAにとってどれくらいの規模なのですか?
非常に小規模で、そもそも単独の開示項目にすらなっていません。ロボティクスは「オートモーティブ・ロボティクス」という合算区分に含まれており、唯一開示されるオートモーティブ(自動車)事業の売上高だけでも、2026会計年度の全社売上高の約1%にすぎません。詳しい内訳は上記「NVIDIAの中核事業と比べていかに小さいか」の項をご覧ください。
GR00Tは、Google DeepMindの「Gemini Robotics」やPhysical Intelligenceの「π0」とどう違うのですか?
3つとも、ロボット基盤モデルとして目指すゴールは同じですが、採るアーキテクチャは異なります。GR00Tは高速・低速のデュアルシステム構成、Gemini Roboticsは単一の大規模推論モデル、π0は拡散モデルによる動作生成です。2026年半ば時点で、GR00Tのモデルの重みは一般公開されている一方、Gemini Roboticsは選ばれたテスターに限定されています。ただし、実世界のタスクで3者を同一条件で比較した独立したベンチマークは存在しません。
08出典
01. Isaac GR00Tとは
04. エコシステム:実際の採用企業
05. 中核事業との規模差
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