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Atoms(アトムズ):トラビス・カラニックがUber退任後に築いた産業用ロボット企業

Atoms(アトムズ)は、トラビス・カラニック氏の持株会社City Storage Systemsが2026年3月に改称した企業です。
8年間、デリバリー特化型キッチンを公の場でほとんど語らないまま築いてきました。
現在は食・ソフトウェア・不動産の6社に加え、元Uber同僚から買収した自律運搬企業を傘下に持ち、2026年7月にはa16z主導で17億ドルを調達しています。
出資者にはUber自身も入りました。
Atomsが作るのは汎用ヒューマノイドではなく、産業現場の特定の仕事を持った専用ロボットです。
公開日2026-08-18読了目安 12分

01成り立ち

年出来事
2017-06カラニック氏がUberのCEOを辞任
2018-03自身のファンド10100がCity Storage Systemsの支配権を1億5,000万ドルで取得し、CEOに就任
2019サウジアラビアのPIFがCloudKitchensに4億ドルを出資(報道ベース)
2021-118億5,000万ドルを調達、評価額150億ドル(報道ベース)。Microsoftが出資者に加わる
2023-2025ゴーストキッチンの逆風。分野全体で人員削減・拠点閉鎖・テナントの入れ替わりが続く
2026-03City Storage SystemsをAtomsに改称し、Prontoの買収を発表
2026-07a16z主導で17億ドルのエクイティラウンド。Uberも参加し、Ben Horowitz氏が取締役に就任
2026-08元UberのCFOゴータム・グプタ氏がAtomsのCFOに就任

2018年、不動産事業として

現在のAtomsは、不動産事業として始まりました。UberのCEOを辞任した9か月後の2018年3月、カラニック氏は新設した投資ファンド10100がCity Storage Systemsの支配権を1億5,000万ドルで取得し、自らCEOとして経営にあたると発表しました。

City Storage Systemsは不振の不動産を買い取って改装し、デリバリー専用の飲食店キッチン「CloudKitchens」と「CloudRetail」という2つの事業の基盤にする会社です。原資は、その2か月前にソフトバンクの出資に応じて売却したUber株でした。

CloudKitchensの拡大と2026年の改称

CloudKitchensは大きく伸びました。2019年にサウジアラビアの公共投資ファンド(PIF)が4億ドルを出資したと報じられ、2021年の8億5,000万ドルの資金調達では評価額150億ドル(いずれも報道ベース)とされ、Microsoftも出資者に加わっています。

この形態は業界では「ゴーストキッチン」と呼ばれます。客席を持たず、デリバリー向けの調理だけを行うキッチンです。過熱が冷めたあとにこの分野で何が起きたかは、後半の「ゴーストキッチンの逆風」で扱います。

2026年3月13日、カラニック氏はCity Storage SystemsをAtomsに改称し、この8年間を意図的なステルス期間だったと説明しました。a16zが公開した本人の寄稿では、復帰ではなく一続きの取り組みだとして、こう書いています。「16年前、私は物理世界をデジタル化する旅を始めた。物理世界をソフトウェアで理解し、予測し、制御することだ」。

同じ発表で、アンソニー・レヴァンドウスキー氏が率いる自律運搬企業Prontoの買収も明らかにされました。同氏は、Waymoの営業秘密をめぐる係争の中心にいた技術者で、2017年までカラニック体制下のUberで自動運転部門を率いていた人物です。

02傘下の事業

Atomsは単一製品の会社ではなく持株会社です。自社サイトでは全体をAtoms Food(「よりよい食のためのインフラ」)・Atoms Mining(「より生産的な鉱山」)・Atoms Transport(「ロボットのホイールベース」)という3つの見出しで整理し、その下に以下の事業会社が並びます。売上と物理的な拠点があるのは食の領域で、鉱業は2026年のProntoの買収とともに加わり、Transportについては同社自身が「発表は追って」と記載している段階です。

Atomsは、建物・注文を回すソフトウェア・調理ラインの機械・できあがったものを運ぶ車両までを自社で持ちます。ロボットを1台売る会社ではありません。自動化が実際に単位あたりの採算に効いてくるには、この垂直の積み上げが要る、というのがカラニック氏の主張です。

Atoms傘下の事業会社

CloudKitchensUSAtoms Food

デリバリー専用のキッチン施設と、その入る産業用不動産。グループ全体の母体になった事業です。

OtterUSAtoms Food

オンライン注文チャネル・POS・厨房のワークフローをつなぐ飲食店向けOS。数千店規模での利用を想定して開発されていると報じられています。

Lab37USAtoms Food

厨房ロボット。「Bowl Builder」は全長約5.8メートル(19フィート)の機械で、18基の食材ディスペンサーとセンサー、蒸気発生装置を備え、ボウル料理の盛り付けと一部の包装を担います。CloudKitchensの施設に入る飲食ブランドでテスト中で、商用稼働している台数は公表されていません。

PicnicUSAtoms Food

職場向けの昼食配送。オフィスの注文をまとめ、決まった時間枠で配送します。

ProFood PropertiesUSAtoms Food

食品製造に特化した産業用不動産。カラニック氏の「アトムのコンピュータ」でいうストレージ層にあたります。

ProntoUSAtoms Mining

鉱山・採石場向けの自律運搬。既存の重機を後付けで自律化します。アンソニー・レヴァンドウスキー氏が創業し、2026年3月にAtomsが買収しました。

03資金調達

2026年7月のラウンド

2026年7月のラウンドは、同社史上で単独としては最大の公表調達です。a16z主導で17億ドルのエクイティを調達し、Ben Horowitz氏が取締役に就任、ベイン・キャピタル・Fifth Wall・Chemistry・A*・K5 Global・Abstract・SV Angel・Alpha Square Group・Uberが参加しました。

あわせてBank of America・ゴールドマン・サックス・ウェルズ・ファーゴ・JPモルガン・バークレイズとデット枠も設定していますが、条件は非公開です。

このラウンドについては、はっきり書いておくべき点が2つあります。1つは投後評価額が非開示であることです。Atomsの「企業価値」として出回っている数字は、同社が出したものではありません。もう1つはUberの参加です。報道では約1億ドルとされ、9年前にカラニック氏を追い出した会社が、その次の会社の株主として名を連ねる形になりました。Horowitz氏自身はa16zのポッドキャストで、「間違いなく私がこれまでに書いた中で最大の小切手だ」と述べています。

上場の状況

Atomsは未上場で、上場の予定も公表していません。買える株式は無く、IPOの申請も出ていません。公開市場に一番近い動きは、1階層下のCloudKitchensにあります。

Bloombergは2025年4月、CloudKitchensが中東事業のIPOに向けてゴールドマン・サックスを起用したと報じました。2025年9月には、JPモルガン・SNBキャピタル・ファースト・アブダビ銀行が加わり、アブダビとサウジアラビアの両市場への上場を目指していると伝えています。

ただし2025年12月には、同じくBloombergが上場の保留を報じました。代わりに私募での調達を検討しており、それが片付いたあとに上場計画が再開される可能性があるとしています。いずれにせよ、この話が対象にしているのは1つの事業部門の湾岸事業であって、Atoms全体ではありません。

公表されている調達額(ラウンド別)

4億ドル
PIF 2019年8億5,000万ドル
ラウンド 2021年17億ドル
a16z主導 2026年

報道ベースの調達額。2026年の数字はエクイティ分のみ

2019

サウジPIFの出資

サウジアラビアの公共投資ファンド(PIF)がCloudKitchensに4億ドルを出資したと報じられました。2016年にUberへ出資したのと同じ政府系ファンドです。

出典Restaurant Dive, Nov 2019

2021

評価額150億ドルで8億5,000万ドル

2021年に完了した8億5,000万ドルの調達で、CloudKitchensの評価額は150億ドルと報じられ、Microsoftが出資しました。CloudKitchens名義の調達は合計で少なくとも12億5,000万ドルにのぼります。

出典Restaurant Technology News, Aug 2026

2026-07

a16z主導で17億ドル

a16z主導(Ben Horowitz氏が取締役就任)で17億ドルのエクイティを調達。ベイン・キャピタル・Fifth Wall・Chemistry・A*・K5 Global・Abstract・SV Angel・Alpha Square Group・Uberが参加し、5行から条件非公開のデット枠も設定しました。投後評価額は非開示です。

出典The Robot Report, Jul 2026

04「アトムのコンピュータ」

CPU・ストレージ・ネットワーク

カラニック氏はこれらをまとめて、物理的な資産でできたコンピュータとして説明します。本人の寄稿では、その構成を「CPUは製造、ストレージは不動産、ネットワークは輸送」と説明しています。どの物理産業にも同じ3つの要素が繰り返し現れ、OSが機械をスケジューリングするようにソフトウェアがそれらを差配できる、という言い方です。

この比喩では、CloudKitchensの建物がプロセッサにあたります。約930平方メートル(10,000平方フィート)に30のキッチンが入る施設を、本人は「30コアのプロセッサ」と表現しています。

1食8ドルという目標

食の事業の採算については、a16zのポッドキャストで、配達される1食を自動化が削る要素から逆算しています。現在およそ12ドルかかる配達コストは自律配送で1ドル以下に向けて下がり、その先に、配達される1食が8ドル前後に着地して、食材を買って家で作るコストと張り合い始める、という目標です。

a16z自身が公開したこの回の章立ても、該当箇所を「An $8 meal delivery」としています。いずれも本人が語る目標値であり、監査された実績ではありません。本人もそのように提示しています。

Atomsが挙げる3つの基本要素

CPU

製造

原子(モノ)が変換される場所。ロボット化された調理ライン、鉱山の処理プラントなどです。

Lab37の「Bowl Builder」、鉱山の処理プラント

MEM

不動産

モノが置かれる場所。複数テナント型の建物で、賃料負担を多数の事業者に分散します。

CloudKitchensの施設、ProFood Properties

NET

輸送

モノが動く部分。食では配送、鉱業では自律運搬トラックにあたります。

配送、Prontoの自律運搬

16年前、私は物理世界をデジタル化する旅を始めた。物理世界をソフトウェアで理解し、予測し、制御することだ。

トラビス・カラニック氏「Unfinished Business」(a16z、2026年)

a16z公式によるトラビス・カラニック氏へのインタビュー(2026年8月)。セクション04で扱う「アトムのコンピュータ」という捉え方と、セクション06の鉱山向けの売り込みが本人の言葉で語られています。

05専用ロボットという方針

Atomsが作らないと決めたもの

Atomsの方針は、作らないと決めた部分に表れています。この3年間、フィジカルAIの資金の多くは汎用ヒューマノイドに向かってきました。世界はすでに人体に合わせて作られている、という論拠です。Atomsは産業現場については逆の立場を取ります。

発表時のカラニック氏の言葉では「ヒューマノイドにも居場所はあるが、産業スケールで効率よく動く専用ロボットの余地は大きい。我々が戦うのはそこだ」。より具体的には、ヒューマノイドは家庭のような人間向けの空間での少量の作業に向くが、「1時間に1,000枚のパンケーキを焼く業務用キッチンが要るなら、もっとその用途に寄せた作り方がいる」としています。

決着していない論点

どちらの立場も、導入データで決着してはいません。ヒューマノイド側の根拠は、1つの身体を多数のタスクで償却できることです。専用機側の根拠は、自社が端から端まで管理できる環境での、投資額あたりの処理量です。Atomsはその環境そのもの(建物・ライン・車両)を保有していて、これは専用機を正当化しやすくする条件です。当サイトのヒューマノイド記事と併せて読むと分かりやすいのですが、2つの主張はロボットの優劣というより、対象とする環境の違いを語っています。

ヒューマノイド優先と専用ロボット優先の違い

1つの身体で多数の作業をこなす立場です。世界はすでに人体の寸法に合わせて作られているため、職場を作り替えずにヒューマノイドを投入でき、学習したタスクの数だけコストを償却できます。

  • Figure AI、テスラOptimus、1X、Unitree
  • モデルの汎化能力がハードウェアを支える、という見立て

1つの仕事に1つの機械という立場です。稼働頻度が高く、事業者が環境を管理できる産業現場では、専用に作った機械が投資額あたりの処理量で有利になります。1時間に1,000枚のパンケーキは、手や腕の問題ではなくキッチンの問題だという整理です。

  • Atoms(Lab37・Pronto)と、多くの工場自動化
  • 環境を端から端まで自社で持つ、という見立て

06事業ごとの進捗

2026年半ばのAtomsは、顧客と売上がある事業が1つ、技術と売り込みがある事業が1つ、そしてまだ発表されていない事業が1つ、という状態です。

Atoms Food:稼働中

顧客と売上がある事業です。建物と、そこに入るテナント、そして注文を捌くソフトウェア層のOtterがあります。

Otterは数千店規模での利用を想定して開発されていると報じられています。

Lab37の「調理ラインの人件費を最大50%削減」は、幅広い店舗で第三者検証を受けていません。

ゴーストキッチンの逆風

食の事業は、事業としては成立している一方で、方針としては論争的です。デリバリー需要の過熱が冷めたあと、ゴーストキッチンという分野全体で人員削減・拠点閉鎖・テナントの入れ替わりが相次ぎました。2023〜2025年の業界メディアの報道は、カラニック氏の会社でも同じ動きが起きていたことと、元従業員およびサラダチェーンMixtからの訴訟を記録しています。

自動化が効くのは、この逆風の一部だけです。調理ラインの人件費を下げても、需要のない飲食コンセプトが立て直るわけではありません。テナントが抜けた区画の家賃は、そこにロボットがいるかどうかに関係なく貸し手の負担になります。建物とソフトウェアと機械をまとめて持つということは、この3つのリスクを同じ会社の中に抱えるということでもあります。

Atoms Mining:立ち上げ段階

技術は2026年3月のPronto買収で入りました。カラニック氏が鉱山の経営者に説明しているのは、自律化によって年間の金の産出が約20%増えるという内容です。

本人の説明でも、返ってくるのは関心と、実証を求める反応であって、締結済みの大型契約ではありません。

Atoms Transport:未発表

Atoms自身のサイトは「ロボットのための車台」と説明したうえで、発表はこれからだとしています。

07数字で見るAtoms

$1.7B
a16z主導ラウンドでの調達額(2026年7月)
8
2026年3月の公開までのステルス期間(年)
6
社名が公表されている事業会社(公式サイトは未発表のTransportを含め7社と数える)
~$8
カラニック氏が掲げる配達1食あたりの目標コスト

08出典

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