企業・製品DB
1X Technologiesの沿革
その土台にあるのは、NEOが家庭で行う作業の多くが、現時点では完全自律ではなく人間のテレオペレーター(遠隔操作者)を介していることを異例なほど率直に認めてきた姿勢です。
01創業の経緯
1Xの創業者ベルント・オイヴィン・ボルニック氏は、11歳の時点でヒューマノイドロボットを作りたいと決意していたと語っており、後にオスロ大学でロボティクスとナノエレクトロニクスを学びました。2014年5月、ノルウェー・モスで共同創業者のフオン・グエン氏(当時CTO、ウルサン大学でロボティクス博士号取得)と機械工のヨルゲン・サンデル氏とともにHalodi Roboticsを創業。取締役会メンバーのポール・ロケン氏が、ロボティクス事業への出資先を探して技術陣に声をかけたことがきっかけでした。
Halodiの初期はヒューマノイド開発に直接取り組んでいたわけではなく、まず独自のアクチュエータ技術「Revo1」を開発しました。ケーブル駆動の差動伝達機構と低摩擦モーターを組み合わせ、業界の他社が採用する高価な高減速比ハーモニックギアを避けた設計です。このアクチュエータ技術が、2020年頃から商用導入が始まった車輪型ヒューマノイドであるHalodi初の製品「EVE」を支えました。2020年にはADT傘下Everonとの提携により、米国の商業施設の夜間警備用に150〜250台のEVEを導入。これが1Xにとって最初の実質的な商業的成果となりました。

1Xの先行製品である車輪型ヒューマノイド「EVE」。NEOに先立つ商業・警備向け製品ラインで、家庭用ロボットへの転換を支えました。
写真: 1X提供- 2014
Halodi Robotics創業
ノルウェー・モスでアクチュエータ研究開発
- 2020
EVEを商用導入
警備向け車輪型ヒューマノイド
- 2023
1Xへ改称
家庭用ロボットへの転換開始
- 2024-25
NEO BetaとGamma
脚型の家庭用ロボット試作機
- 2026
NEO出荷開始、ヘイワード工場稼働
予約完売、米国での量産開始
02家庭向けへの転換
同社は2023年7月3日、Halodi Roboticsから1Xへの改称を正式発表しました。ボルニック氏はこの新社名を設計思想と結びつけ、「機能するために動作を遅くしなければならない他社のアンドロイドとは異なり、1Xのモデルは等速(1倍速)で動作する」と説明しています。ただし、家庭用ロボットへの戦略的転換自体は、この正式発表より前の2022年〜2023年初頭頃に始まっていたとする複数の二次情報もあります。
OpenAIのベンチャー部門は2023年3月、評価額2億1,000万ドル(投後)で2,350万ドルのシリーズA2を主導しました。これはFigureと並び、OpenAIによるヒューマノイドロボティクスへの最初期の投資の一つです。2024年1月には、EQT Venturesが主導し、Samsung NEXTとOpenAI Startup Fundも再度参加する形で1億ドルのシリーズBが成立。CEOのボルニック氏は、これがチームの働きに対して初めて金銭的な還元ができた機会だったと述べています。2025年9月時点では、1Xが評価額少なくとも100億ドル(2年半足らず前のシリーズA2時点の評価額の約48倍)で最大10億ドルの資金調達を協議中と報じられていますが、本稿執筆時点でこのラウンドが正式に成立したことを確認できる情報源はなく、間に成立したシリーズBの評価額も公表されていません。
確認済みの資金調達ラウンド別評価額(投後)
1X公式発表/TechCrunch
資金調達ラウンド
シリーズA2
OpenAI Startup Fundが主導し2,350万ドルを調達。評価額2億1,000万ドル(投後)。OpenAIによるヒューマノイドロボティクスへの最初期の投資の一つ。
シリーズC(協議中、2025年9月時点)
評価額少なくとも100億ドルで最大10億ドルの調達を協議中と報じられているが、本稿執筆時点でこのラウンドの正式な成立を確認できる情報源はない。
03製品の系譜
1Xの製品ラインは、はっきりと分かれる2つの段階を経てきました。車輪型の商業用ヒューマノイド「EVE」は、2020年代前半を通じて1Xの収益源となる製品であり、警備・物流業務向けに導入されました。家庭用ロボットへの本格的な転換は、2024年8月発表の「NEO Beta」から始まります。脚を持つ、身長165cm・体重30kgのヒューマノイドで、柔らかいクッション性の外装を備えています。続く2025年2月発表の「NEO Gamma」では、Betaと比べてハードウェアの信頼性を10倍改善し、騒音を10デシベル低減したと1Xは説明しており、新たな自社開発の対話モデルも搭載しています。
コンシューマー版「NEO」の予約受付は2025年10月28日に開始され、価格は一括2万ドル、または6か月契約を最低条件とする月額499ドルのサブスクリプション、予約列に加わるための返金可能なデポジット200ドルという構成でした。NEOの重量は約30kgで、70kgを持ち上げ、25kgを運搬でき、稼働時の騒音は22デシベルです。1Xによれば、予定していた初年度生産分(約1万台、コミット済み収益にして約2億ドルに相当)は、予約受付開始からわずか5日間で完売したとしています。

1XがNEO向けに想定する家庭環境での様子。2025年10月の予約受付開始にあわせた同社公式キャンペーン写真です。
写真: 1X提供1X公式による「Introducing NEO Gamma」発表映像(2025年2月)。下記セクション03で扱う世代です。
1X公式による予約受付開始映像「NEO The Home Robot | Order Today」(2025年10月)。
04「自律とテレオペレーションの組み合わせ」
1Xは業界の中でも異例なほど、NEOの現在の能力のどれだけが、完全な自律AIではなく人間の操縦者を介しているかについて率直に説明してきました。ボルニック氏は「初期段階では、作業の多くはテレオペレーターによって行われる」とはっきり述べており、ウォール・ストリート・ジャーナル記者による試用取材の報道でも、その記者に対してNEOが行ったタスクのいずれも自律的には行われていなかったことが明らかにされています。2025年11月のインタビューでは、ボルニック氏はNEOの動作を「自律とテレオペレーションの組み合わせ」と説明し、自律的なドア開閉の成功率が社内データで90%台、物を取ってくる作業では約80%だとしながらも、人間が補助する運用そのものが、外部の清掃業者を雇うより安全である可能性があると擁護しています。その根拠として、操縦者の審査、リアルタイムでのマネージャーによる監督、監査証跡、そして操縦者が住人の顔や、どの家のロボットを操作しているかを知ることができない匿名化されたインターフェースを挙げています。
1Xはこのモデルに特化したプライバシー保護機能も組み込んでいます。ユーザーが設定できる「立入禁止ゾーン」(ロボットと操縦者双方をソフトウェアレベルで特定の部屋から締め出す)、操縦者側の映像フィードにおける顔のデフォルトぼかし処理、人間が操作を引き継いだ際に点灯する視認可能なライトリング表示、そしてクラウドへのアップロード前に所有者が映像を削除できるローカル保存機能などです。それでも2025年10月のNEO発売時には、複数の報道機関から厳しいプライバシー批判が寄せられました。ある報道で引用されたプライバシー専門の弁護士は、収集されるデータが「ありふれたもの……から、極めて個人的なもの」まで及ぶと指摘しています。具体的には、子どもを含む住人や家の間取りのリアルタイム映像などです。批判する側は別途、顔のぼかし処理だけでは匿名性を保証できないとも主張しています。声・行動パターン・生活習慣から住人を特定できる可能性が残るためです。
- ユーザーが設定できる「立入禁止ゾーン」により、ロボットと操縦者を特定の部屋からソフトウェアレベルで締め出せます。
- 操縦者側の映像フィードにはデフォルトで顔ぼかし処理が適用され、人間が操作を引き継いだ際は視認できるライトリング表示が点灯します。
- 映像はまずローカルに保存され、クラウドへのアップロード前に所有者が内容を確認・削除できます。
05米国工場と量産
1Xは、それまで分かれていた米国カリフォルニア州サニーベールとノルウェー・モスのチームを、2025年7月発表の新本社(延床面積8万平方フィート、パロアルト)に統合しました。続いて、米国カリフォルニア州ヘイワードに専用のNEO工場を建設。延床面積5万8,000平方フィートのこの施設は、約3か月で建設され、2026年4月30日にフル稼働の量産を開始しました。当初の生産能力は年間1万台で、2027年末までに年間10万台という目標を掲げ、さらにカリフォルニア州サンカルロスでのより大規模な施設の計画も控えています。ヘイワードのラインが稼働を開始した当日に公開された報道によれば、同ラインから出荷されるロボットは依然として社内テスト・検証に回されており、完売済みの予約列に対する実際の顧客への配送はまだ始まっていませんでした。
この設備投資拡大にあわせて、1Xの従業員数も急速に増加しています。2024年末時点の約388人から、1年後の2025年末には約654人に、そして2026年半ばには、ある第三者トラッカーの集計で1,000人を超えました。うち200人超は、新設のヘイワード工場に特化して配属されています。
生産体制・従業員数
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 2014-05 | ノルウェー・モスでHalodi Roboticsを創業 |
| 2020 | Everon/ADT経由でEVEを夜間警備業務に導入 |
| 2023-03 | OpenAI Startup Fund主導のシリーズA2(2,350万ドル) |
| 2023-07 | Halodi Roboticsから1Xへ改称 |
| 2024-01 | EQT Ventures主導のシリーズB(1億ドル) |
| 2024-08 | 「NEO Beta」を発表 |
| 2025-02 | 「NEO Gamma」を発表 |
| 2025-07 | パロアルトの新本社に拠点を統合 |
| 2025-10 | NEOの予約受付開始(2万ドル)、5日間で完売 |
| 2026-04 | 米カリフォルニア州ヘイワードのNEO工場がフル稼働開始 |
06中国勢に対抗する「西側の選択肢」という位置づけ
1Xの取り組みは、次第に地政学的な文脈を帯びるようになっています。2026年6月、米下院・中国特別委員会が中国のヒューマノイドメーカーUnitreeを国家安全保障上の懸念だと公に警告し、「敵対国製」のロボティクスを制限する法案「GUARD法」の提案と結びつけたことを受け、1XはNEOの開発者向けプラットフォームの公開を前倒ししました。ボルニック氏はこれを、西側の開発者にとっての空白を埋める取り組みだと明確に位置づけ、「西側が本格的なヒューマノイド開発プラットフォームを持つことは、人類の未来にとってあまりに重要であり、私たちが独占していい話ではない」と述べています。
この位置づけは、それぞれ明確に異なる戦略を持つ3社の争いの中に1Xを置くことになります。評価額390億ドルのFigure AIは、テレオペレーションに依存したデモを率直に批判し、自律優先の姿勢を掲げます。テスラの「Optimus」は市場投入からより遠い位置にあり、2026年半ば時点で商業販売の確定した時期は示されていません。そして1Xは、人間の操縦者への依存を隠すのではなく、透明性そのものを売りにする姿勢を選び、公然とハイブリッドなアプローチの方が、純粋な自律型よりも先に有償の顧客に届くと見込んでいます。
07よくある質問(FAQ)
1X Technologiesの創業者は誰で、いつ設立されましたか?
ベルント・オイヴィン・ボルニック氏が2014年5月、ノルウェー・モスで共同創業者のフオン・グエン氏、ヨルゲン・サンデル氏とともに「Halodi Robotics」として創業しました。2023年7月、商業・警備用ロボットから家庭用ヒューマノイドへの転換にあわせて「1X Technologies」へ改称しています。
NEOは実際に自律的に動作しているのですか?
完全にではなく、1X自身がそれを公然と認めています。CEOのベルント・ボルニック氏は、NEOの動作を「自律とテレオペレーションの組み合わせ」と説明しており、現時点では作業の多くを人間の操縦者が担っています。自律的なドア開閉の成功率は約90%以上、物を取ってくる作業では約80%程度としており、残りは顔ぼかしや立入禁止ゾーンといったプライバシー保護のもとで遠隔の人間操縦者に回されます。
NEOの価格はいくらですか?
一括購入の場合は2万ドル(2026年配送優先)、または最低6か月契約の月額499ドルのサブスクリプションで、予約列に加わるための返金可能なデポジットは200ドルです。1Xによれば、2025年10月の予約受付開始から5日間で、予定していた初年度生産分が完売したとしています。
1X Technologiesはこれまでにいくら資金調達しましたか?
確認済みのラウンド合計は約1億2,350万ドルです。内訳はシリーズA2(2023年3月、2,350万ドル、評価額2億1,000万ドル)とシリーズB(2024年1月、1億ドル)です。2025年9月時点で、評価額100億ドル超・最大10億ドルの追加ラウンドを協議中と報じられていますが、成立を確認できる情報源はありません。
08出典
01. 創業の経緯
02. 家庭向けへの転換
03. 製品の系譜
04. 「自律とテレオペレーションの組み合わせ」
05. 米国工場と量産
06. 中国勢に対抗する「西側の選択肢」という位置づけ
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